海猫亭日誌

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zoom RSS 渡りの足跡 梨木香歩

<<   作成日時 : 2010/11/25 22:47   >>

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「なまじ知恵があり、ゆとりがあると、かえって道を見失いがちになるのかもしれない。
持てる知恵を全てわたりの方向を見定める為、渡りの道行を凌ぐ為に使わざるを得ない状況は不運と呼べるかもしれないが少なくとも不幸なことではない。それを決めるのは当事者以外いない」

本を読むには時期がある。時々そう思うことがあります。

あの時期、あの言葉に出会った。ただ、それだけのことがとても大きな意味を持つ。
それがどんな意味なのか出会った本人にも判らない。

ただ、その言葉が自分の中に強い印象を残したことだけはわかる。そういう言葉に出会ったことがあります。

「『存在』は移動し、変化していく。生きることは時空の移動であり、それは変容を意味する。それが『渡り』の本質なのだろう。
生き物は皆それを生き抜かなければならない。その道行が時にどんなに不器用で、本人自身当惑するような姿をして現れてこようと」

渡る鳥達、渡る人間達。

「『森』で生きるというのは都会で生き抜くのとはまた違う緊張を強いられるものだろう。物音や気配、匂い、風の動き、少しでもキャッチするのが遅ければ命を落とす危険のある場所。いやがうえでも五感は研ぎ澄まされていく」

 そういう森の中で生きた猟師は彼を案内人として雇った軍人に強い印象を残し、夫の仕事に誇りと尊敬の念を持っていた軍人の妻は、夫の死後、彼にかけられた反革命容疑を認めず、銃殺される。様々な人間模様。

鳥は太陽の位置を体内時計で補正しながら渡る。

「幼いころに星空を見た経験を持たない鳥は成長してから、いくら星空を見せても定位することは出来ない。
つまり自分の内部に外部の星空と照合し合う星々を持っていないということだろう」

と、他の鳥達が自分の内部に外部の星空を照応し合う星々を持っていることを著者は!つきで記し

「自分を案内するものが、実は自分の内部にあるもの、と考えると『外界への旅』だとばかり思っていたことが、実は『内界への旅』の鏡像だったのかもしれない、とも思える」
と、語る。どちらが虚で、どちらが実なのか。

カラスに追いかけられるハヤブサやオオジロワシ。
「本当に必要な時にしか攻撃性を発揮しない」鳥達。その在り様を

「生物の在り方として正しいのではないか、と秘かに自分に言って聞かせる」

ことで、著者は無言の問いを私に投げる。では人間は?本当に必要にない時でも攻撃性を発揮する人間の在り様は生物としてどうなのだろう?

「エチゼンクラゲが海にあふれるこの光景は私達の生きる今の自然の姿そのもの」
そう語る言葉の後、綴られる人の声。
「(この自然環境が)元に戻ることは、まあ、ないでしょうけど、でもそれでもなんとか出来ることをやっていくしかない」
「人間って、行ったとこで生きていくなりのこと」

そう、ぽつんとつぶやく人。

「生物が自分の適性に合った環境に恵まれるということは恩寵以外の何物でもない。『渡り』はその環境を追い求めての行動でもあるのだろう。
定期的に渡りを繰り返す生物には毎年ある時期が来ると、ここではない、もっと違う場所へ、という衝動が生れる。その場所は自らの記憶にあるどこかなのだ。
それは結局『帰りたい』という衝動なのか。自分に適した場所。自分を迎えてくれる場所。本来自分が属している筈の場所」

 自分を案内する自分の「内界への旅」

「さあ、出発しよう、という時の衝動は『帰りたい』という本能的な帰巣本能とほとんど同じもののような気がしてならない。
生物には帰りたい場所へ渡る。自分に適した場所、自分を迎えてくれる場所、自分が根を下ろせるかもしれない場所。自分が属している筈の場所。還っていける場所。たとえ、そこが今生では行った筈のない場所であっても」

この一文が心に残る本でした。

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